品質アンカー

品質管理検定1級を保有するエンジニアのブログ

前後工程を意識する事で全社的な品質を向上させる

 


組織内において各ラインや設備の担当作業者を決め、

 

そのライン作業や設備オペレーション工程の責任者を明確にするのはごく一般的な組織運営の方法です。

 

 

不具合が起これば責任元がはっきりしますし、また製造業等で標準原価計算を導入している企業なら、

 

日次や週次の生産実績や生産性の管理においても、実績を挙げれていない担当者を明確にし、改善を指示する事もできます。

 

とにかく、固定で工程担当者を置くと企業としても管理しやすいですし、

 

作業者としても、責任範囲を限定されるのでやりやすいと感じる人も多いでしょう。

 

 

ですが、工程担当者を固定し、責任範囲を限定するといくつかの弊害も出てくるんですよ。

 

 

前後工程への品質理解が進まない

作業者を固定する事で、管理がしやすくなる反面、作業者は他の工程への関心を徐々に失っていきます。

 

品質管理は単発の工程だけで完結するものって意外に少ないです。

 

前工程の出来栄えやバラツキが自工程に影響してくることが多いです。

 

前工程の曲げ角度や曲げ振り分け、タップ不良や穴位置ずれ、NCレーザータレパンでのカスあがりによる穴かえりなどなど...。

 

例を少しあげるだけでもポンポン出てきます。現場経験が豊富な方なら。

 

 

前工程の不具合によって自工程の治具にセットできない、位置決めピンに入らない、ガイドボルトが締まらない、

 

なんて事は現場作業では日常的に起こり得ます。

 

こういった場面で品質的に怖いのは、前工程の不具合が自工程で発見されれば良いのですが、

 

経験の浅い、もしくは前後工程への関心を失っている作業者は、前工程の不具合をスルーさせてしまう事です。

 

 

ベテラン作業員や、前後工程を良く理解している作業者なら、前工程の不具合を見抜き、また不具合ではないにしろ、

 

後工程の作業に影響が出そうな軽微な不具合や寸法バラツキも見抜けたりします。

 

もし自分が品質管理の責任者だったら、工程責任者を固定する事による管理のしやすさをとるか、

 

作業者全員に前後工程の品質も意識してもらい、工程全体で不具合を監視するか、

 

どちらの運営方法を選択すれば良いかは明確ですね。

 

 

多能工が育たないので良質な管理者が育たない

作業者を固定し、責任範囲を限定すれば、もちろん多能工(多くの技能を保有する工員)など育つわけもありません。

 

前後工程への関心を失えば、あの仕事やこの仕事もやってみたいという意識も生まれません。

 

 

現在の日本製造業の良くない点の1つに、管理者の技能と現場技能の乖離があげられます。

 

大卒で現場経験の浅い若手が、人事や上位管理層の意向で、現場管理者となります。

 

しかし、特に工程が多岐に渡るような製造現場で、ほとんど技能成熟が見られないような

 

大卒の若手管理者がしっかり管理を行える程、製造現場は甘くないです。

 

 

必ず技能や技術が未熟であるという点で、管理に綻びが出ますし、

 

成熟した技能を保有する各工程責任者と、仕事上のコミュニケーションが上手くいかない事が多いです。

 

 

やはりできる管理者となるには社内各工程の要素技術を品質管理や生産・製造技術からのアプローチで、

 

深く理解している人材でないと難しいです。

 

 

 

全社的品質を高めるにはナレッジマネジメントが重要

組織内の不具合対策や改善活動は有益な技術情報や知識の宝庫で、

 

その有益な会社資産は全ての従業員の情報として共有されるべきで、

 

貴重な会社資産であるそういった情報や知識を共有する事により、

 

企業全体の技術力や情報品質の底上げに繋がります。

 

そして情報や知識の積み上げが全社的品質の向上に繋がって行くのです。

 

社内ネットワークに、不具合対策や改善活動の情報プラットフォームの設置は必須事項ですね。

 

 

まとめ

外国人労働者が増加する日本ですから、品質の低下も危ぶまれる中で、

 

MADE IN JAPAN品質を守るためにも、

 

今一度全社的品質管理に目を向ける時期に差し掛かっています。

 

全社的品質の向上には従業員全員の意識を高く持つ事が必須となりますね。

 

QCポイントは工程動画を作成し可視化しよう

f:id:QCanchor:20190121232943j:plain

 

ものづくり現場で不具合が発生した際の対策として、当該不具合発生工程の不具合原因と改善策を明示したQCポイントを掲示する企業も多いと思います。

 

ですが、QCポイント資料のラミネート掲示するだけでは、不具合原因や改善策を十分に周知し、情報共有できているとは言えません。

 

 

そのような状態で、担当作業者が変わると再び同様の不具合が発生する可能性が高いです。

 

 

では、QCポイント資料をどのような形式で作成するのがベストかと言うと、工程動画という形式がベストであると考えます。

 

 

工程動画とは

ワークの一部分の作業動画のみではなく、ワーク全体の工程を動画撮影し、一連の工程の中で、不具合が発生した作業が前後工程にどのような影響を及ぼすのかを確認できるようにし、

作業を分割して掲示するQCポイントの解りにくさを解消できる形式です。

 

 

工程動画の効果

習熟度の低い作業者の品質確認にも応用でき、人員の入れ替わりが激しい現場の品質確保や、動画を保存するツール(Ipadなど)を活用し、

工程検査記録のエビデンス保存や、統計的品質管理を行うなど品質管理の幅を広げる事で、品質維持や向上の効果が期待できます。

 

 

日本語能力の低さをカバー

ツイートのように、工程動画は昨今増加している日本語能力の低い外国人ワーカーへの指導資料としても活用できます。

 

 

作業の流れを可視化する事で、わかりやすさや勘所をおさえ、品質確認の確実性が増し、言語コミニュケーションが円滑でなくても、一定の品質を保てる効果が期待できます。

 

 

工程動画の運用は人員の入れ替わりが激しい中小企業でより効果を発揮します。

是非、中小製造業の管理者の方は導入を検討してみてください。

 

 

 

日本企業の組織体制と品質管理のミスマッチ

f:id:QCanchor:20190115002004j:plain

 

日本の一般的な製造業を正業とする企業の組織体制は、一般に大企業とされる企業では、

 

品質保証部という対外的に自社製品の部材調達から製造プロセス・製品品質や要求品質を顧客に対して保証する部署の下に、

 

品質管理課という、自社製品の部材・製造プロセスの品質管理に特化したセクションを設けている企業が多いです。

 

 

もちろん大企業であればあるほど、製品群は多岐に渡り、様々な要素技術や製造技術を駆使して製品を生産していく訳であって、

 

品質管理課には、種々の要素技術や製造技術・それに付帯する設備や治工具への専門知識が必要となります。

 

 

しかし、得てしてそんな種々の技術に精通している人材なんていうのは、一朝一夕に得られる訳もなく、

 

品質管理課メンバーは、幅広い工程で発生した、様々な要因で起こる不具合に対して、品質保証部より流出原因発生原因の深い考察を要求されるのです。

 

 

品質管理課独自での発生原因の深い考察は不可能

まあ正直なところ、品質管理課に対しては十分な専門知識を得られるような座学やOJTの時間を設けていない企業が大半なので、

 

日頃、製造業務を行っていない品質管理課メンバーが、独自に発生原因の深い考察なんてできない訳です。

 

 

結局は、不具合発生部署(製造部)と連携して、現場職長レベルと協議しながら、発生原因を分析していく事になります。

 

しかし、ここで問題となるのが組織間の風通しが悪い企業では、品質管理課と製造部の連携が全く上手くいきません。

 

製造部での不具合発生ならば、品質管理課と連携して発生原因を分析するという事は、自らの失敗をさらし、分析されてしまうという事にもなります。

 

企業・組織の風土や考えが、不具合を隠蔽するのが悪で、不具合の原因を詳細に分析し、恒久的な対策を立案し、作業標準や重点品質管理項目に盛り込み、

二度と同様の不具合を流出させないようにする事が評価されるような組織風土なら品質管理課と製造部の連携も上手くいきます。

 

ですが、往々にして日本の製造現場は不具合を隠蔽する傾向にあります。これは現実です。

 

 

日本の組織風土は不具合をマイナス思考でとらえすぎる

組織が評価しないのです。不具合を出してしまったという事実を。

不具合を流出させれば頭ごなしに叱責され、評価が下がります。日本企業の評価制度は。

ですが、考えてみてください。

 

例えば完全ポカよけの治具を使用していたなら不具合は発生しません。しかし、完全ポカよけになっていない治具を使用しているから不具合が出たのです。

 

では、新規治具製作時に完全ポカよけの治具を製作する責任を負うのは製造部ではなく、生産技術部です。

 

ですが、だいたいの日本企業では、製造部が流出させた不具合の報告書に、治具が完全ポカよけとなっていないという原因を文言として盛り込むと、

「言い訳するな」「治具を生産技術部から引き受けた時点で製造部の責任だ」などと非難を受けるでしょう。

 

しかし、感情論抜きに考えると、完全ポカよけを考慮できていない治具を製作してしまった時点で、生産技術部の”不具合”なのです。

 

日本企業は間接業務や管理業務の失敗をあまりにも”不具合”として認識しなさすぎです。

 

製造現場は不具合を流出させると非難されます。しかし、管理者の運営ミスや工程管理ミス・連絡漏れなどは管理業務の”不具合”としては認識されません。

 

単なる”失敗”として認識されます。

 

大抵が部署内や関係部署から注意を受ける程度で、不具合記録として、エビデンスには残らないのです。

 

顧客や取引先に多大な迷惑を掛けてしまう可能性があるにもかかわらず。

 

結局の所、日本企業の評価制度が製造現場の不具合に関してあまりにもマイナス思考なので、製造部は不具合の隠蔽に注力し、大した要素技術を持たない間接部門である品質管理課に非協力的となり、

 

結果、連携が上手くとれないという事になります。

 

 

 

製造部内に品質特化部隊を

こうしたジレンマの解決策としては、当然不具合発生のマイナス評価以上に、発生原因や流出原因の迅速且つ的確な分析と、恒久的かつ持続可能な対策の立案をより評価する組織風土が必要で、

 

その上で、やはり製造部に品質管理に特化した部隊を設置し、その部隊のメンバー構成をベテラン・中堅・若手で構成し、

 

製造部内で徹底的に不具合の発生原因を分析し、潰します。(間違っても不具合を発生させた作業者に丸投げしてはならない)

 

そして品質管理課と製造部品質部隊が連携し、流出原因を潰していくというプロセスにする事です。

 

品質管理課には流出原因を潰すことはできても、発生原因を潰すことはできないからです。

 

多くの企業では発生原因と流出原因を一緒くたにし、品質管理課に分析させています。

 

発生原因を深堀すると、製造現場のあら探しに繋がってしまいやすいので、連携がとりにくい訳です。

 

製造部にも品質管理機能を設ける企業は昨今増えてきており、

 

不具合発生時に製造部の品質部隊と品質管理課が連携していく事が、最もスムーズに不具合分析の深堀と早期の対策の展開に繋がるでしょう。